この535 おとなをまちがえる日

今日も味噌汁を飲み猫にさわり漫画をかいている。
お味噌汁の具はここ最近ずっと食べたかったじゃがいも。
それに玉ねぎとキャベツとしめじ。仕上げにバターと七味を少々。
うちのお味噌汁はメインのおかずなので汁というより鍋物に近い。
具だくさんでスイスイ飲めない。

なんだかむしょうにごろっとしたものに絵を描きたい気分になり家の中を探し回る。
じゃがいもはお味噌汁に入れてしまった。
粘土があるのでごろっとした素地を作ろうかと思ったが固まるまで待てない。
今描きたい。
なにを植えるか考えているうちに年月だけが過ぎた未使用の植木鉢があった。
ツルツルカクカクしていて「ごろっ」とは少しちがうけどまあいい。
うっかり花や木などを描かないよう気を付けながら絵を入れていく。
これから本物の植物が植わるのだから。

税金関連でなにやら通知が届いていた。書類を作成し返送しろという。
春先の確定申告ですべてかたづいたのではなかったのか。
泣きたくなる。おとなつらい。
不明な点は問い合わせるよう書かれている。ありがとう、不明しかない。
わからないことがなんなのかわからない状態におちいらないよう質問を紙に書き出す。
今わからないことと、来年わからなくなりそうなことと、
ついでに単純な興味からくる疑問(グッズの収入やアニメ化された作品のディスクからの収入に個人事業税はかかるのか、など売れていない漫画家には関係ないこと)など、箇条書きにしたら11個あった。
満を持して電話をかけ、担当の方に質問し始めたら3個目の質問あたりからみるみるウザそうな口調になり4個目でとうとうさえぎられてしまった。
電話を切ったあとしばらく呆然とする。

「ご不明な点がありましたらお問い合わせください」というのはもしかして、
美容院で言われる「かゆいところありませんか」みたいな、
返事は「大丈夫です」一択の、真に受けたらいけないおとなのあいさつだったんだろうか。
「ご不明な点がありましたらお問い合わせください(ご不明な点がありましたらお問い合わせくださいとは言っていない)」って、インターネットのはしっこみたく書いておいてくれたら…!
急に恥ずかしくなる。また調子に乗ってしまったんだろうか。
いたたまれなくて猫をさがす。

ふて寝して起きて、おいしいとうわさのうどんどん兵衛・袋麺を作って食べどうにかこうにか落ち着く。

この534 犬を描く日

シジュー過ぎると俄然おいしくなる食材があるという。
噂はかねがね聞いていた。

自分のそれは、紅しょうが。
以前は、一袋食べきれないから「吉野家」の小袋入り紅しょうがを10パック入りくらいで売ってほしい…とよく言っていた。
今なら余裕で完食できる。

37~8歳で急にまいたけの天ぷらが中毒性の高いメニューに変貌した。
ラーメンのたまごは半熟味付たまごより白い固ゆでがいい。
ごぼうから出るだしが沁みわたるように好きになった。
それからここ最近はなんだかさやいんげんがおいしい。

お味噌汁の具のいんげんは永遠に食べ続けられる気がする。
なにこの食感。キュッキュする、キュッキュ。
わたし何を食べているんだろう、なんだか食べ物じゃないような気もする。
でも止まらない。これメインは豆じゃないよね?皮?
いんげんのことだけぐるぐるぐるぐる考えてトリップしそうになる。

今日も家から出ず、お味噌汁を飲み猫をさわり漫画をかいている。
ほんというと何日か前から、商業誌掲載に向けたネームを作る手が止まってしまっている。
ブログの編集画面を開き、しみったれた愚痴を書いちゃあ消し書いちゃあ消す。

とはいえ完全に手を止めてしまうとみるみるへたくそになっていくので実作業は続ける。
ラジオを聴きながら次のコミティアに出すための原稿。
はじめて秋田犬に見える秋田犬が描けた。
次に描いた秋田犬は今ひとつで、その次のコマの秋田犬はからっきしだめ。
その次は最初の秋田犬よりもうすこし良い秋田犬になった。
猫を描くときのようにキャラクターごとに描き分けるまでには程遠いけれど、うれしい。
こういうことをまだうれしいと思えることに慰められる。
瀕死だけど一応まだ息はある。

お皿に移したお豆腐1丁に缶詰の味付けたらこをほぐして汁ごとどさっと乗せる。
すこしだけ醤油をたらし、焼き海苔をちぎってパラパラしたものをつまみにお酒を飲む。



この533 風呂好きに論破される日

恥をしのんで言うけれど、お風呂があまり好きではない。
衛生面で他人に迷惑をかけないために仕方なしにシャワーは使う、という感じ。
清潔うんぬんだけでなく、肩とか腰とか首とかこのまえからずっと傷めているひざとか、ひざをかばうせいでガチガチの筋肉疲労を起こしているふくらはぎとか、代謝がどうとかこうとか、健康のためにもうたぶんぜったいお湯に浸かったほうがよいに決まっているのはわかっている。

お風呂が好きだというひとに「浴槽に浸かっている間、何をしているのか?」と訊いたら
「浴槽に浸かっている」と答えた。あそっか。
そして浸かりながら「お風呂に感謝」とか「お風呂を発明したひとを表彰すべき」とか思うらしい。
そんなことちらっとも考えたことがない。
私はその時間が耐えられず本などを読むのだけれど、「今ってそれなりに忙しいはずなのに、なぜ私は特段読みたくもない本を読んでいるのだろう???」という疑問と焦りでいっぱいになってしまう。

それにお風呂に毎日浸かるひとには、セットでお風呂掃除とお湯を張る手間もついてくるではないか。
面倒で毎日なんてとてもやっていられない。
…と、これまたお風呂好きのひとにからんだところ、満足するまで浸かったらさっさとお湯を抜いて「こすらず流せるタイプ」の洗剤をスプレーし、頭や体を洗っているあいだ放置して、上がる際にシャワーで落とすという。
なんという効率。しかしあれだ。
こすらず流せるタイプの洗剤を、本当にこすらず済ませるには相当な量の洗剤を消費するのではないか、不経済ではないか、と食い下がると
「それはそうだけれどきみのようにたまにしか浸からない人間にとっては大した不経済にならず、手間いらずのメリットのほうが大きいではないか」ともっともなことを言われてしまった。

そうじとか洗濯とか、死ぬまでずっと続けなくてはならないことが、好きなひとがうらやましい。
今までに2~3回しかお風呂に入ったことがない猫たちのこともうらやましい。

死ぬまでずっと、で不意に思い出したが10代の一時期、「食べることに興味がない」というのに憧れて真似してみようとしたことがあった。無謀なことはやめろと言いたい。

この532 甘い蕎麦と知りながら食べる日

子供のころ読んでいた「なかよし」の作家さんに会う夢を見ていた。

雄猫に頭をポテポテと叩かれて目が覚める。夕方。
眠りが明けるか明けないかの頃合いに決まって起こしにやってくる。
どうやって飼い主の睡眠の終わりを知るのだろう。
血流や脈の音が聞こえているのだろうか。

つゆが甘すぎる蕎麦屋でしむらさんと食事。
蕎麦とカツ丼のセット。甘い、ほんとうに甘い。
「11ぴきのねこ」の話など。

外から戻ると雄猫が玄関先まで迎えに来ていた。これもまた不思議。
履いているのがスニーカーだろうとヒール靴だろうと、ちゃんと飼い主の足音と判別できているようだ。
猫に人間離れというのもおかしいが、超人的能力が身近にあるというのはドキドキする。

冷蔵庫に手をつっこみぶどうを3粒ちぎって食べながら仕事机に向かう。
漫画をかく。


この531 桃思いにふける日

野生動物が気の毒だ。
ひざサポーターがない。
すべての中高年野生動物はひざサポーターのラクさを知らずに過酷な自然のなかを生き抜いていると思うと胸が痛くなる。
…てくらいにラクである。

筋トレでひざを傷めて運動をやめてしまったせいで、元の体力なしなしマンに戻ってしまった。
目が覚めて起きて行動を始めるまでにやたらと時間がかかる。
一時的なものと思っていたのによくなる気配がない。
もしやこれは、伝統的通販番組でおじいさんおばあさんが訴え続けている、かの慢性的ひざ痛かもしれない。
ためしにサポーターなるものを購入、着けてみたところでこのラクさである。ありがとう文明。

サポ巻きの太いひざで歩いて旬を過ぎた桃を買いに行く。
皮ごと食べるのにハマった。
食べてみるまではとても抵抗があった。
桃の皮には細かい毛が生えていて、じつはとげに近い。
こどものころ顔面に刺さってたいへんな思いをしたことがある。
同級生の家に行ったとき、彼女の小さな妹に桃を頬に押し当てられたのだ。
たいへんかわいらしいしぐさだった。
ところが、そのあと、どうも頬のようすがおかしい。
さわるとチリチリと痛む。
洗ってもなかなかとれない。
こするたび痛む。
友人や友人のおかあさんに言ってもそんなはずはないと信じてもらえない。
幼い妹はニコニコしている。
ならば同じことをこの小さい子に仕返してやろうか、と怒りがわいた。
もちろんしない。そんな恐ろしいことは絶対にできないくらい痛かったのだ。
以降、桃の皮には要注意なのだった。

その件を思い起こしながら桃を手に、流水で丁寧に洗って毛を落として食べる。
滋味というのだろうか。皮のかすかな渋みが甘味を際立てる。おいしい。
思い出もあいまってスリリングな愉しみ。
(ちなみに桃の皮でアレルギー症状が出るひともいるらしくスリリングどころで済まない場合があるのでご注意)

今年の夏は出始めのスイカの価格が高騰して手が出せず、食べ始めるのが遅かった。
あわててスイカをむしゃむしゃしているうちにあっという間に梨が出回り出した。
梨をシャリシャリ食べながら「ああ、桃、まだ食べていないのに…」と心残りがあった。
逃さずすんでよかった。
次はぶどう、それからりんご、柿。
夏秋は旬のくだものを追いかけるのに忙しい。

この530 ズボンなんかどうだっていい日

部屋着のズボンのウエストのゴムを換えたらすこぶる快適だ。
いままでヘアゴムやクリップで留めたりしてだましだまし履いていたがいよいよだましきれなくなってきた。
腰履き野郎の生き残り、ここに没す。
20代まではカッコツケてジャージというものを軽蔑し家でもずっとデニムを履いていたが、
いま履いているのはジャージよりも存在の軽い、なんというのだろう、ズボン界でもっとも身分の低そうなズボンだ。ひざに穴もあいている。

ところで最近の若いひとは「ズボン」ではなく「パンツ」と言う、というのは私が「最近の若いひと」だったころからもうずーっと言われている。
でもどうだろう?と思う。
パンツ呼びがどんなに浸透しても、ズボンはズボンでしっかり生き残っていく言葉だと思う。
なにしろパンツは決定的な弱点、「文字で書くと下着なのか服なのかわかりにくい問題」を抱えているのだから。
そこを最初からクリアしているズボンくんを相手にパンツくんも健闘しているが、駆逐するのは無理だろうなと思う。

はーどうでもいい、死ぬほどどうでもいい。
本当はズボンのこともパンツのこともそんなにまじめに考えてなんかいない。
書くことないなら書かんでよろしい。
今日はなんだか体調がおかしい。

小学校の朝礼のときの「やばい…あ~…やばい…これ…やばい…」という状態をキープしている。
起きているのはしんどい。
横になって見る夢は悪夢ばかり。
猫だけがすばらしい。もう一度。
猫だけがすばらしい。






この529 めがねを新調する日

ネームをpcで作るようになってから転げ落ちるように目が見えづらくなっている。つらい。
40がらみの漫画家飲み会で必ず話題に登るあれが自分にも来たのか。

めがねは好きだ。めがねをかけている女性も男性も好き。
めがねをかけている人間にはめがねをかけるに至るまでの経緯がある。
それをいろいろ想像する。ポジティブなものもネガティブなものも、だいたい好ましく思える。
しかしめがね好きの私とはかなり長い付き合いにもかかわらず無視され続けているめがねびとがいる。
私だ。
おっぱい好きの女子が自分の乳は完スルーなのと同様、自分のめがねなどなんだっていい。
コップの底でものぞいてろという気分である。

しかしコップで仕事ははかどらない。
眼鏡店へ行かなくてはならない。
めがねは顔の一部だ、皮膚だ、いや臓器のひとつだ。
これから私に会うひとはめがねごと「イシデ」と認識する。
鼻や目や口は選べないがめがねは選べる。
「なんだっていい」のなら不恰好じゃないほうを選ぶにこしたことはない。
自分を奮い立たせる。ゆけ、ゆけ、荒野を。
ローレンローレンローレン、ローレンローレンローレン…
完全に老眼を意識したテーマを頭のなかで口ずさみながら店に入る。

眼鏡店で勤務経験のある知人に教わった、めがねのつるに書いてある数字の読み方を思い出しながら選んでいく。
「53□18-140」
最初の2ケタがレンズの横幅のサイズだ。
つまりここの数値が大きければ眼鏡全体の横幅も大きくなる。
横幅が小さいめがねは顔面の大きさがきわだって悲しくなる。
しかし大きければよいというものではない。
私は現在マッシュルームカットをしており、極端に大きいと大木凡人になる。
なにを言う、むしろそこを目指してこそのキノコ頭ではないのか。う、だかしかし。
ひとしきり迷って55bondくらいのものを選んだ。

店員さんによると、見えづらいのは視力の低下ではなく疲れ目によるもので、めがねの度数はむしろ下げたほうがよいかもしれないという。
見えないから疲れるというよりめがねの強い度数に合わせて見ようと調節する神経が疲れるから疲れる。
度数をすこし落とせば楽になり、肩こり首こりも楽になり頭痛は治り緊張型の性格は穏やかになり大らかになり寛容になり多くのひとに愛され私もまた人類を愛し世界は平和になり戦争はなくなるという。
嘘だ、そんなことは言っていない。
めがねの完成を待っているあいだの30分が期待を過剰にさせる。

めがねの新調じたいが急な出費であるにもかかわらず、気が大きくなってまわるお寿司を茶碗蒸しまで添えて食べてしまった。


でんやこのごろ ~イシデ電ブログ~

さまよったりちまよったしながら漫画をかいている。

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